医学生・研修医諸君へのメッセージ
将来の専門領域をどうしようかと迷っている医学生・研修医諸君へ。君達の選択肢の中に放射線治療医はあるか。もしあるのだったら、このページをじっくり読んでみて、放射線治療の魅力を再確認し、さっそく明日、近くにいる放射線治療医に声をかけてみよう。「放射線治療医って結局どうなの」と。もし選択肢になかったとしても、うっかりこのページを開いたのも何かの縁だから、最後まで読んでみて君の選択肢にそっと加えておこう。え?もう放射線治療医に決めているって?。じゃあ、せっかくだから熊本大学に入局して、私達と一緒に最先端の放射線治療を研修しよう。ついでに、隣の席でスマホいじっている同級生も誘っといて。放射線治療医になるには、特別な能力や知識が必要ってわけじゃない。ごくごく普通でオーケー。強いて言えば、「癌治療にまったく興味がない」または「癌治療に関わるのだけは絶対に嫌だ」という人はちょっとムリ、ってことぐらいか。
- Future
- 放射線治療の将来性について
癌罹患率、死亡率が鰻上りということは知っているよね。では、年齢調整死亡率は実は減少しているってことは?。そうです、年齢調整死亡率は低下しているのです。癌死亡率が上昇しているのは、医療従事者が怠けているんじゃなくて、人口の高齢化が主な理由だってことね。癌の診療技術は、この数十年間、しっかり治療成績向上という結果を出してきているというわけ。腫瘍外科も、薬物療法も、この癌という病気に真剣に取り組んできたし、放射線治療だって着実に進歩してきている。定位照射や、IMRT、IGRTなどの高精度治療、3次元治療計画、4次元治療計画、機能画像応用、小線源治療、化学放射線療法、粒子線治療、その他、数え上げたらきりがない。それでも、人口構造の高齢化に伴い、癌患者が増えているのも事実で、放射線治療を受ける患者数も増えているし、そして当然ながら高齢の癌患者も増えている。手術や抗癌剤に比べて、高齢者や体力の落ちた患者にも安全に行える、放射線治療の需要が急速に増えるのも頷けるよね。言うなれば、癌診断学の進歩、高齢化社会、QOLへの関心の増加、等々の現象によって、私達放射線治療医は大きなチャンスを与えられた。それに対して、マシンの開発、技術のブラシアップ、治療効果の向上、副作用の軽減、という形で恩返ししているところと言ってもいい。この傾向は今でも、そしてこれからも当分継続するわけで、実際、放射線治療を受ける患者数はこの10年で倍に増えているし、今や全癌患者の30%が放射線治療を受ける時代に突入している。アメリカでは60%だそうだけど。
- ※第3回がん対策推進協議会資料
- ※地域がん登録全国推計(2006)及び日本放射線腫瘍学会2009年構造調査
だから「放射線治療の将来性は?」と聞かれて正直に答えたら、「あり過ぎ」って言うしかない。しかし日本でこのペースが続いて、10年度にアメリカ並みになったらどうなるんだろう。全国の放射線治療医はボロボロに疲れて、昼飯抜き、残業連続、土日返上?。いやいや、もちろんそんなことはない。治療計画や照射装置の効率化が進んでいるし、医療スタッフの多様化や協力体制もますます充実、それにそもそも、症例数が青天井で増加するわけでもないし。そうは言っても、今これを読んでいる、若い医学生、医師の諸君の熱意と能力が必要なのは明らかだ。そう、放射線治療を目指してみないか。将来性は十分すぎる。すぐに即戦力になれる。誰にも真似できない特殊技能という名の武器を修得できる。自分自身のQOLだって悪くない。女医さんも大歓迎。ちょっと回り道してきた人も大歓迎。体力も要らない。根性も要らない。数学や物理やコンピューターの特別な知識も要らない。要るのは癌に対する敵意と患者さんに対する熱い想いのみ。放射線で癌を治そう。君達の力で癌を治そう。患者さんを癒そう。患者さんの笑顔に癒されよう。
- Role
- 放射線治療の癌治療における役割
癌治療の三本柱っていう言い方は、もう耳にタコができるくらい聞いてきたかもしれない。でも本当にその言葉通り。外科手術、放射線治療、薬物療法、はそれぞれ独自のスタンスで癌と闘ってきたのは、紛れもない事実だ。ここでは、癌治療全体における、放射線治療の役割についてまとめてみる。
外科手術は局所治療、薬物療法は全身治療、放射線治療は、局所プラスαをカバーする治療だから両者の中間。外科手術は局所制御力最強、化学療法はマイルド、放射線はその中間。つまりいずれにしろ中途半端、なんて思っていないかい?。もちろんその見方も間違いではないのだけれども、私達放射線治療医は、ちょっとそれとは違った視点を持っている。手術療法には「切除範囲」という空間的概念はあるのだけれども、「感受性」という生物効果的概念はない。逆に薬物療法には「範囲」という概念はなくて、「感受性」がすべてだ。では放射線治療はどうかというと、基本的に局所治療なので「照射範囲」あるいは「標的体積」という空間的概念も重要だし、「照射線量」「線量分割」「腫瘍正常組織治療効果比」といったような「感受性」をいかにコントロールするかという視点も重要なのだ。つまり、決して中途半端なんていう立ち位置じゃなくて、外科医(剣士)と薬物療法医(魔法使い)の両方のセンスを持ち合わせて癌と闘う、すなわち「魔法剣士」とか「パラディン」に相当する役どころと言ってもいいんじゃないだろうか。実臨床における放射線治療の役割は次の4つ。その1は「切らずに治す」(肺癌、前立腺癌、子宮頸癌、その他各種早期癌)。つまり剣士には休んでいてもらって、放射線治療が癌治療の主役として立ち回り、より低侵襲に癌を根治させる。定位放射線治療やIMRT、IGRTなどの高精度照射技術やRALSなど小線源治療はそれを目的として研究開発されてきたようなものだ。その2は「集学的治療」(原発性脳腫瘍、頭頸部癌、乳癌、肺癌、直腸癌、リンパ腫、その他のちょっと進行した癌)。剣士や魔法使いとパーティーを組み、それぞれの特性を相乗的に発揮することで、もっとも根治的かつ最小の副作用の癌治療を目指す。放射線治療は時に主役、特に脇役として振舞う。その3は「機能形態温存」(頭頸部癌、食道癌、乳癌、肛門癌、膀胱癌、その他機能温存が重視される領域)。これこそ、放射線治療のセールスポイント、キャッチフレーズ。患者に優しく、癌に厳しく、っていう魔法剣士の腕の見せどころ。その4は「緩和医療の切り札」(骨、脳などの転移性腫瘍による症状緩和)。放射線治療は実は30年前はこれがメインの仕事だったので、緩和医療が重視されるようになった昨今、昔とったキネヅカとして本領発揮。すなわち、パラディンとしての腕のみせどころ。このように多様なプロフィールを持つのも、放射線治療の面白さの一つだし、やりがいと言ってもいいんじゃないだろうか。
- Doctor
- 放射線治療医になるということ
結局のところ放射線治療医の仕事って何?、日常的にどんなことをしているの?、放射線技師とどこが違うの?。時々学生さんにも聞かれることなのだが、うーん、やっぱりわかりにくい?。確かにこれは私達の不徳の致すところ。この辺りのアピールがいまひとつ上手でないのかもしれない。と、ちょっと反省してみたところで、放射線治療医になるということはどういうことか、ざっと説明してみる。もちろん施設によって異なる点は大きいと思うが、放射線治療医には以下の3つの「顔」があり、それぞれ全体の1/3を占めていると思う。
まず、もっともクラシックな意味での「臨床医」としての顔。つまり、放射線治療医は、普通の一人の医師として患者を診察する。これから治療を開始する患者さんに医療面接を行い、治療の目的、方法などについてわかりやすく説明する。治療計画に必要な理学的所見をとる。数週間にわたる治療期間中には定期的に診察し、副作用や治療効果に関する患者さんの期待や不安に寄り添う。入院患者さんの回診をする。治療終了後も定期的に経過観察の診察をする。これには、癌患者さんと信頼関係を構築し、他職種のスタッフとも協調できる、コミュニケーション能力が不可欠である。次に、いわゆる「Doctor of Doctor」の顔。内科、外科、その他多くの診療科が、臓器別(縦糸)の専門性を持っているのに対して、放射線治療科は、画像診断科、臨床病理、総合診療などと同様に臓器横断的(横糸)の役割を担う診療科である。放射線治療は、頭から足まで、人体のあらゆる部位の悪性腫瘍に施行される。そのため、ある意味generalistとしての広範な視野が求められるのみならず、多くの診療科との深い連携が必要である。カンファレンスやオーダリングシステムのやりとりにおいて、あらゆる診療科のドクターのコンサルトに応じ、適切な助言とサービスの提供を通して信頼を受けるようになる。これも放射線治療医の醍醐味の一つだと言える。最後に「放射線治療Planner」としての顔。放射線治療計画とは、すべての治療予定患者に照射開始前に必要なプロセスである。病歴、理学所見、画像所見などに基づき、直前に撮影したシミュレーションCT画像上で、腫瘍の進展範囲と必要線量、周囲の正常臓器の耐容線量を推定し、標的体積、ビーム配置、線量分布、線量分割法、併用療法、などを決定する。これは、放射線治療医独特の専門技術であり、一人前になるには相当のトレーニングが必要。どんなキャリアのある放射線治療専門医でも、あるいはどんなにありふれた病態であっても、治療計画の作業は緊張する。わずかな油断でさえも、その患者さんの治療の成否、すなわち患者さんの生命を左右する可能性があるためである。そして、治療計画が放射線治療医によって最終確定されて初めて、治療計画の検証は医学物理士に、放射線照射そのものは放射線技師にゆだねられ、実際の日々の放射線治療がスタートする。でも、物理士や技師は医師の治療計画に忠実に従うのみかというとそうではなくて、彼らは放射線治療医にとって、厳しい教師という一面も持っている。治療計画の不備や過誤をフィードバックして、放射線治療医のスキルアップに一役買うこともしばしばである。
以上、この長い文章を最後まで読んだ君は偉い。そんな君だからこそ、もう一度繰り返す。放射線治療医を目指そう。放射線治療の専門医になろう。放射線で癌を治そう。熊本大学は、放射線治療医学分野が独立して存在する、九州唯一の大学だ。きっと君を、そして君の治療を受ける将来の患者さんを満足させる、充実した教育体制で君を迎える。放射線治療の酸いも甘いも知り尽くした、優秀で親切な指導スタッフもたくさんいる。時に優しく時に厳しく、君を立派な放射線治療医に育てるために労を惜しまないだろう。君が計画した放射線治療を受ける患者は、10年後、20年後の私達自身かもしれない。よろしく頼む。
入局概要
- 医師免許を取得し2年間の臨床研修を終えた後に放射線治療科に入局すると同時に日本放射線腫瘍学会および日本医学放射線学会に入会します。入局1年目から3年目(卒後3年目から5年目)は、放射線科専門医取得のために画像診断科と協同で研修を行います。この期間には、治療計画や日常診察など放射線治療に関してはもちろんですが、癌の病期診断や放射線治療計画には画像診断の知識が必要となりますので、画像診断を含めた放射線科としての基礎全般の知識を習得するための研修を行います。研修は大学病院または関連施設をローテートしながら行います。研修は放射線治療、画像診断を満遍なくしてもらいますが、それぞれどれくらいのウエイトを置くかは個別に相談して決めていきます。放射線科専門医取得後は、2年後の放射線治療専門医試験合格に向けてさらに専門的な研修を行います。これらの期間または放射線治療専門医取得後を含めて、学位の所得を目指して大学院への進学も歓迎します。将来は大学病院や関連病院のスタッフとして研究・教育や診療に放射線治療医として活躍してもらいます。