一般外照射総論・各論

定位放射線治療総論

定位放射線治療とは、小さな腫瘍に対して多方向から放射線を集中させて治療する方法です。
照射中心位置の固定精度を頭蓋内で2mm、呼吸など動きがある体幹部でも5mm以内に保つという、非常に高精度な治療技術です。
いわゆる「ピンポイント照射」という名前でも知られており、従来の放射線治療と比べ、病変に対して、大線量を短期間に照射することが可能となります。

当院では、直線加速器(リニアック)を用いて、原発性肺癌や転移性肺癌、肝細胞癌、転移性脳腫瘍などに対して定位放射線治療を行っています。詳細については、以降にそれぞれのご紹介がありますので、ご参照下さい。 なお、定位放射線治療が適しているかどうかは、個々のケースにおいて、病変のサイズや位置、併存疾患などを十分検討する必要があります。
そのため、種々の検査が必要となることがありますので、主治医を通じて、当科にご相談下さい。

胸部用固定具
胸部用固定具
頭部用固定具1
頭部用固定具1
頭部用固定具2
頭部用固定具2
頭部用固定具3
頭部用固定具3
頭部用固定具4
頭部用固定具4
7.5mmのCone
7.5mmのCone
治療機械近景
治療機械近景
治療機械近景2
治療機械近景2
色々なCone
色々なCone
頭部固定具
頭部固定具
放射線治療機械
放射線治療機械

―脳定位放射線治療
脳転移に対する放射線治療は、脳全体に放射線治療を行う全脳照射と、脳転移のみにピンポイントで放射線治療を行う定位放射線治療に分けられます。定位照射は専用の固定用のマスクを使用し、高線量を集中的に照射しますので高い治療効果が期待できます。脳全体に照射する全脳照射と比較して治療部位以外の脳内に再発する可能性は高くなりますが、全脳照射を行ったときに問題となることがある将来的な認知機能低下のリスクは低く、頭部全体の脱毛も生じません。また他部位に再発した場合は、繰り返し治療を行うことも可能です。定位照射は1回で照射を行う方法もありますが、当科では複数回に分割して照射を行っており、比較的大きな腫瘍に対しても安全に治療を行うことが可能です。現在、4個以下の脳転移に対しては定位照射のみでの治療の対象としていますが、状況に応じて全脳照射との併用を行うこともあります。

―肺定位放射線治療
肺腫瘍に対する定位放射線治療は、1回高線量の放射線を腫瘍に限局して投与する治療法です。肺内に限局した小さな病変(直径5cm以内)や転移性の少数(3個以内)の病変に対して、手術療法やラジオ波による焼却療法(RFA)と並ぶ新しい治療法の一つです。腫瘍の位置や全身状態等を総合的に判断して、定位放射線治療が適しているかを判断します。精密で安全な治療を行うため、放射線治療前には、仰向けの姿勢で体を固定するための固定具を作成します。その後、自由に呼吸をした状態で、呼吸に伴う腫瘍の動きを確認するために四次元CTの撮影を行います。実際の治療は基本的に入院の上、2週間前後で行います。1回の治療時間は約30分から1時間程です。呼吸による腫瘍の動きが大きい場合、呼気時のみ放射線を当てるように設定します。(呼吸同期照射と言います)。これにより腫瘍にはより正確に治療を行い、周囲の正常肺への影響を減らすことが可能となります。

放射線治療計画

―肝定位放射線治療
肝腫瘍に対する治療法は、手術療法、ラジオ波による焼灼療法(RFA)、肝動脈化学塞栓療法(TACE)、化学療法などがあり、腫瘍や肝臓の状態を考慮して、これらの治療法が選択されてきました。近年、高精度放射線治療の技術が発達して、1回で大線量を病変へピンポイントに投与する定位放射線治療が肝腫瘍にも応用されるようになりました。肝腫瘍に対する治療法の新たな選択肢です。放射線治療前には、あらかじめ腫瘍の近くに純金製の金属マーカーを留置します。放射線治療を行う際には、放射線治療装置の寝台上で4DコーンビームCTという画像を撮像し、呼吸に伴う腫瘍の位置変化を4次元で評価します。正確な腫瘍の位置変化を評価することにより、病変に対する正確な線量投与と不必要に広い放射線照射の回避が実現します。文献的には80-90%と優れた治療効果が報告されており、今後の適応拡大が期待されている治療法です。

図 肝腫瘍に対する定位放射線治療の線量分布


IMRT総論

IMRT(強度放射線治療)
放射線治療ではリスク臓器(放射線の副作用が問題となる臓器)の照射線量を下げながら、腫瘍に十分な放射線を照射することが望まれます。近年はCTを用いた放射線治療計画が一般的となり、多方向からの照射を行うことで、腫瘍に集中的に照射しリスク臓器の照射線量を下げることがある程度可能となっています。しかし、腫瘍がリスク臓器を取り囲むように存在するような場合は、従来の照射法ではリスク臓器の線量を下げることが困難です。IMRT(強度変調放射線治療)では、リニアックの放射線の出口の形を形成するマルチリーフコリメータと呼ばれる遮蔽装置を、コンピュータ制御で照射中に経時的に変化させることで、放射線内の強度に差をつけて照射を行います。これを多方向から組み合わせたり、回転させながら照射することで、腫瘍に必要とされる放射線を照射しながら、腫瘍に囲まれたリスク臓器の線量を下げることが可能となります。当科ではIMRTは主に前立腺癌や頭頸部癌に行っていますが、必要に応じて脳腫瘍、肛門管癌、皮膚腫瘍や再照射でリスク臓器の線量をより下げる必要がある場合等にも行っています。


  • 図 リニアックの照射口とマルチリーフコリメータ図 リニアックの照射口とマルチリーフコリメータ

  • 図 照射口の経時的な変化図 照射口の経時的な変化

頭頸部

―頭頸部腫瘍に対するIMRT
頭頸部腫瘍には脳、視神経、脊髄、眼球、耳下腺など様々な正常臓器が近接しています。腫瘍に対して放射線治療を行う場合、これらの臓器に放射線が照射されることによる副作用の出現が懸念されます。IMRTを利用することにより、病巣に均一かつ高線量を投与すると共に、近接する正常臓器の線量を低減することが可能になります。頭頸部腫瘍はIMRTが非常に有用である領域の一つです。当院では、PETの撮像と放射線治療計画用CTの撮像が同時に可能な一体型PET/CTシミュレーター装置を導入しています。PETと放射線治療計画用CTを同一寝台、同一体位で撮像することにより、精度が高い融合画像の作成が可能です。上咽頭癌に対しては、PET/CTシミュレーターによる融合画像を利用したIMRTを行っています。

図 上咽頭癌に対するPET/CTシミュレーターを用いたIMRTの線量分布
Rad Fan 放射線治療活用BOOK2014.2014,12(15),p43

前立腺

―前立腺癌に対するIMRT
前立腺癌に対する放射線治療法には、体の外部から放射線を照射する「外照射療法」と、放射線を出す小さな線源(金属)を前立腺内に挿入する「小線源療法」があります。「外照射療法」の新たな治療法であるIMRTを施行することにより、これまでの外照射療法より大腸や膀胱等の正常臓器に当たる放射線は少なくなり、前立腺癌により強い放射線を照射できるようになりました。まず、治療計画のためのCTを撮影します。その際に、毎回の治療精度を保ち、実際の照射中の体動防止目的の患者さん専用の固定具を作成します。専用のコンピュータを用いてその患者さんに最もよい治療計画を作成します。CTを撮影してから治療開始まで約3週間程度かかります。毎日の照射前に治療装置上でCTを撮影し、実際の前立腺の位置を確認した後に正確な照射を行います。そのため、直腸内を空に、膀胱に尿が溜まっている状態で照射します。治療時間は約15分程度です。治療回数は約38回(76グレイ)で、1日1回治療を行います。

図 前立腺癌に対するIMRT の線量分布

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